これは私が小学校の教師をしていた時の話です。授業を終え、昼休みに職員室で束の間の休憩を取っていました。すると、クラスでもお調子者だったE君が、けたたましい勢いで職員室に入ってきました。そして、私に「先生、先生。F君がカメに噛まれました。」と報告しました。私は、「それはいかん。すぐに保健室に行くように言いなさい。」とE君に返答しました。E君は「はい。」と言いながらも、どこか納得できない表情で職員室を出ていきましたが、すぐに戻ってきました。「先生、あのう、F君が…。」せっかちな私は、遮るように「カメに噛まれたんでしょう?すぐにF君を保健室に連れて行きなさい。」と言い放ちました。するとE君は絞り出すように、「あのう、F君はまだ、カメに噛まれたままです。」と衝撃的なことを口にしました。「なにい?」私は急ぎ、F君のいる教室に向かいました。 その教室では、人だかりができていて、その輪の中心には、へたり込んでいるF君の姿がありました。彼は当然のごとく泣いていました。そして、よくよく彼を見ると、右手に、甲羅の長さが25cmほどのカメがくっついていました。くっつくという表現がぴったりで、カメはF君の右手人差し指を噛んだまま首を一気に引っ込め、首のみならず手足も引っ込め、絵的にはF君の右手は「親指・カメ・中指・薬指・小指」という状況でした。 心配した級友が、カメを引っ張ろうとしますが、カメも必死で抵抗します。その都度F君の指には激痛が走り、泣きわめきます。笑っては不謹慎でしたが、その絵面は笑いをこらえるにはなかなかのレベルでした。しかし、F君の救出のために、かわいそうだけど、カメには亡くなってもらうしかないという判断で、千枚通しで甲羅の間を刺し、カメがダメージを受けて指を離してくれるような荒っぽい処置をしました。観念したカメはやっとのことで首を出し、F君の指は取り出すことができました。しかし、被害は甚大で、指の皮がべろりと剥け、保健室レベルではなく、すぐさま整形外科行きになりました。カメは・・・お亡くなりになりました。そもそもなぜこういうことになったかと言えば、F君がカメの面前で指を動かして挑発?したのが発端でした。ほかの子どもたちには、「要らぬことをするなよ!」という教訓を与えました。