私は認知症のお年寄りの方が通うデイサービスで働く介護士です。 利用者さまは自宅で暮らしながら、日中はデイでお預かりして、レクリエーションを行ったり、入浴サービスを提供したりして過ごしていただいています。認知症のため、日常生活にさまざまな支障をきたしている方が多いです。 私は、朝と夕方に送迎車で利用者さまの送り迎えに同行しています。利用者さまは物忘れがひどく、ぼーっとしていることが多いため、車中での会話も続くことは少ないです。 ある日、遠方から通われている利用者さまをご自宅へ送り届けていた時の事です。歌が好きな男性利用者さまと口数が少ない女性利用者さまの2名が乗っていました。男性利用者さまは上機嫌で、お得意の『炭坑節』を歌っていました。とても伸びやかで上手に歌われていて、拍手をしました。 ふと、『認知症の方は最近のことは忘れてしまうことが多いけど、昔の事はよく覚えていたりけど、童謡を歌ってみたらどうだろう?』と思いました。そこで、「ちいちいぱっぱ~♪」と雀の学校の出だしを歌ったところ、2名の利用者さまが目を輝かせながら、続きを歌い始めたのです。口数が少ない女性利用者さまも、スイッチが入ったかのように大きな声で楽しそうに歌っていました。 最後まで素晴らしい合唱は続き、歌い終わった2人はとても生き生きした表情をされていました。私はその姿を見て、驚きと感動を覚えました。 記憶が薄れていっても、子どもの頃の記憶がその人の可能性を引き出すのだと学びました。その日の帰り道はいつもより気分が弾み、笑顔が溢れていました。 仕事をしてきた中でとても記憶に残っている嬉しいエピソードです。